周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

小田文書27 ─長買免?永買免?─

   二七 僧良慶屋敷田地売券

 

 (売渡)         (相傳)  (私領屋敷)

 うりわたしまいらするさうてんのしりやうやしき田事

    いゑのまへ三まち

  合 くわのきわら小 さこの口六十歩 同やしき

                         (良慶)

    又迫口六十歩 これハ十五年毛加売候、同日(花押)

                     (要用)           (直銭)

 右件田、さうてんのしりやうなり、しかるをようゝゝあるによりて、ちきせん貳貫も

   (限)    (玖島)  (進)

 んにかきりて、くしまの大しんとのに、なかかいめんニうりわたしまいらする所也、

               (全)  (相違)    (作)

 たゝしようとう候とも、五年ハまんたくさういなく、つくらせまいらせ候へく候、五

  (過)

 年すき候ハ丶、貳貫五百文のようとうをもてうけかへし候へく候、かつうハいつハう

            (他) (違乱)    (耕作)

 あいともにうり候上ハ、た人のいらんなく、かうさくあるへく候、かのちのしたい

 (証文)

 せうもんハ、いつハうもちて候へハ、いさゝかのさた候ハ丶、あきらめ候へく候、い

    (新儀)

 かなるしんき御徳政候とも、不相違候、仍爲後日うりけんの状件のご

 とし、

     (1310)

     延慶三年五月十日          僧良慶(花押)

                [         ]

 

 「書き下し文」(可能な限り漢字仮名交じりにしました)

 売り渡し進らする相伝の私領屋敷田の事、

       家の前三まち

  合わせて 桑の木原小 迫の口六十歩 同屋敷

       又迫口六十歩 これは十五年毛を加え売り候ふ、同日(花押)

 右件の田、相伝の私領なり、しかるを要用あるによりて、直銭貳貫文に限りて、玖島の大進殿に、なかかいめんに売り渡し進らする所なり、ただし用途候ふとも、五年は全く相違なく、作らせ進らせ候べく候ふ、五年過ぎ候はば、貳貫五百文の用途をもて請け返し候ふべく候ふ、且つうは伊豆房相共に売り候ふ上は、他人の違乱なく、耕作あるべく候ふ、彼の地の次第の証文は、伊豆房持ちて候へば、聊かの沙汰候はば、明らめ候ふべく候ふ、いかなる新儀・御徳政候ふとも、相違有るべからず候ふ、仍て後日の為売券の状件のごとし、

 

 「解釈」

 売り渡し申し上げる相伝私領の屋敷・田地のこと。

  都合 家の前の三まち。桑の木原の小。迫の口六十歩。同屋敷。また迫の口の六十

     歩。これは十五年分の作毛を加えて売ります。同日(花押)。

 右の田地は、我々が相伝した私領である。しかし、お金の必要があって、代銭二貫文で、久嶋の大進殿に「なかかいめん」に売り渡し申し上げるところである。ただし、費用が用意できましても、五年間はまったく契約を違えることなく、これらの田地を大進殿に耕作させ申し上げるつもりです。五年が過ぎましたなら、二貫五百文の費用をもって田地を請け返すつもりです。そのうえ、私は伊豆房とともにこの田地を売りましたうえは、他人の妨害なく、耕作するべきです。この田地の由緒がわかる証文は、伊豆房が持っておりますので、ちょっとした問題が起こりましたなら、伊豆房が事情を明らかにするはずです。どのような新儀非法や徳政令があったとしても、この契約を違えるつもりはありません。そこで、後日ために作成した売券の内容は、以上のとおりです。

 

 「注釈」

「良慶」

 ─久嶋郷岩氏住人伊豆房良慶。二号・三号文書で訴人と現れています。論人は重正・重安という刀禰。

 

「いつハう」

 ─伊豆房良慶。差出人「僧良慶」の左に欠損文字があるようなので、ここに別人の署名があったと考えられます。そうでなければ、「かつうハいつハうあいともにうり候上ハ」が解釈できません。この文書は、伊豆房良慶と名前の消えたもう一人の人物が一緒に売り渡したものと解釈し、かつ文書の作成主体はもう一人の人物とするべきではないでしょうか。したがって、文書名は「僧良慶・某連署屋敷田地売券」に改めた方がよいと考えます。良慶と「某」の関係は、よくわかりません。

 

「十五年毛」

 ─十五年分の作毛。作毛は作職の得分だと思います。迫口の六十歩の田地については、この年から十五年分の得分の取得権も売り払ったということになるのでしょう。

 

「大進殿」─未詳。

「なかかいめん」

 ─中買免?半買免?長買免?永買免?。「なか」にどのような漢字を当てるのかよくわかりませんが、「かいめん」は「買免」のことでよいと思います。いわゆる年季明請戻特約本銭返のこと(安野眞幸「『買免』とは何か 売買考」『文化紀要』44、1996・8、http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10129/2110/1/BunkaKiyo_44_75.pdf)。

 

*今回の場合、五年契約の年季売りで、本銭二貫文を返済すれば、良慶のもとに所領は戻ってくることになるはずですが、請け戻しのための費用は二貫五百文になっています。なぜ五百文増えているのか、その理由は判然としません。「買免」は「売買」というより「貸借」に近い契約なので、五百文を利子として計上したのかもしれません。

 また、「なか」買免についてですが、今回の契約は、五年という年季内ではなく、年季明けに、しかも年季さえ明ければ何年経とうと買い戻しができるという契約になっています。つまり、長く買い戻しができる契約なので、「なか」には「長」・「永」という漢字を当てて、「長買免」・「永買免」と呼んでいたのかもしれません。一応ここでは、「なかかいめん」を、「年季が明け、契約金(本銭とは限らない)を返済するによって、以後いつでも当該物件を請け戻すことができる契約」と考えておきます。