周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

小田文書28

   二八 僧良慶屋敷田地売券

 

 ようゝゝあるによりてうりわたしまいらする田やしきらの事

  合 やしき一所 前ニまち三通 くわのきわら小 さこの口六十歩者

 右件田地ハ、さうてんのしりやうたりといへとも、ようゝゝあるによつて、直銭貳貫

                             (實)

 文ニ大進殿ニ、なかかいめんに、うりわたしまいらするところしちなり、たゝし五年

                            (子細)

 をかきりにハまんたくようとうをかへしまいらせ、一こんのしさいをも申候ましく

   (他)

 候、た人のいらんなく御かうさくあるへく候、五年すき候ハ丶、なんねんともうけか

 へしまいらせ候ハんと思ひ候ハ丶、貳貫五百文のようとうをもて、うけかへしまいら

         (約束)             (言)

 せ候へく候、このやくそくのほかハ、まんたく一ーのしさいを申候ましく候、かつう

     (證文)

 ハしたいせうもんのかきわけをそへしんし候うゑハ、た人のいらんあるましく候、仍

 爲後日沙汰證文之状如件、

     (1310)かのへいぬ

     延慶三年五月七日        僧良慶(花押)

 

 「書き下し文」(可能な限り漢字仮名交じりにしました)

 要用あるによりて売り渡し進らする田・屋敷等の事、

  合わせて 屋敷一所、前に町三通、桑の木原小、迫の口六十歩てへり、

  右件の田地は、相伝の私領たりと雖も、要用あるによつて直銭貳貫文に大進殿に、

 なかかいめんに、売り渡し進らする所実なり、ただし五年を限りには全く用途を返

 し進らせ、一言のしさいをも申し候ふまじく候ふ、他人の違乱なく御耕作あるべく

 候ふ、五年過ぎ候はば、何年とも請け返し進らせ候はんと思ひ候はば、貳貫五百文

 の用途をもて、請け返し進らせ候ふべく候ふ、この約束のほかは、全く一言の子細

 を申し候ふまじく候ふ、且つうは次第証文の書き分けを副え進じ候ふ上は、他人の

 違乱あるまじく候ふ、仍て後日の沙汰の爲、証文の状如件、

 

 「解釈」

 お金の必要があって売り渡し申し上げた田地と屋敷のこと。

  都合 屋敷一所、家の前町三通、桑の木原小、迫の口六十歩。

 右の田地は、私良慶が相伝した私領であるけれども、お金の必要があって代金二貫文で大進殿に、「なかかいめん」で、売り渡すことは事実である。ただし、五年以内は用途を返済し申し上げて、大進殿に一言も異議を申し上げる(請け戻しを要求する)つもりはありません。他人の妨害なく、耕作なされるべきです。五年が過ぎましたら、以後何年経とうとも、田地を請け戻し申し上げつもりでおりますので、二貫五百文の費用をもって請け戻し申し上げるはずです。この約束のほかには、まったく一言の異議も申し上げるつもりはません。さらに、この田地の由緒を記した証文を書き分けて副進しますうえは、他人の妨害もあるはずはありません。よって、将来の問題に備えるために作成した証文の内容は、以上のとおりです。

 

 「注釈」

「なかかいめん」

 ─長買免・永買免か。年季が明け、契約金(本銭とは限らない)を返済するによって、以後いつでも当該物件を請け戻すことができる契約か。詳しくは前回の記事参照。

 

「書き分け」─配分の結果を書き記したもの、処分状(『日本国語大辞典』)。

 

*二七号文書とほぼ同内容ですが、この文書は三日前に作成されています。この七日付文書(二八号)と十日付文書(二七号)の関係、違いについてもよくわかりません。違いの一つに、「又迫口六十歩 これは十五年毛を加え売り候ふ、同日(花押)」という文言が、十日付文書の売却物件に書き加えられています。そうすると、七日付文書は効力を失い、新たに十日付文書が作成された可能性があります。ただし、前回のところで解釈したように、十日付文書は僧良慶と某の連署の文書で、作成主体は某だったと考えられます。某が連署することに意味があったのなら、両方の文書それぞれに効力があったとも考えられます。ひょっとすると、買主の「大進殿」が良慶の売券だけでは信用ならないと判断し、新たに某の連署した売券の作成を求めたのかもしれません。