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周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

小田文書30

   三〇 久島郷刀禰友重申状案

 (端裏書)

 「國重目安案文」

 畏申上候、抑久嶋百姓爲弘与同刀禰友重相論申候名田訴陳状二問二答番御奉行所

 令進上候處、彼状等令紛失之上者、以本土代書進上仕候由、被

 下候之間、如本土代書進上仕候、若本案ニ相違仕候者、當國鎮守厳島大明神御

 罰於友重可罷候、以此旨御披露候、恐惶謹言上、

     三月廿七日          刀禰友重上

    進上御奉行所

 

 「書き下し文」

 畏み申し上げ候ふ、抑も久嶋百姓爲弘と同刀禰友重と相論申し候ふ名田の訴陳状二問

 二答を番え奉行所に進上せしめ候ふ處、彼の状等紛失せしむるの上は、本土代を以つ

 て書き進上仕るべく候ふ由、仰せ下され候ふの間、本土代のごとく書き進上仕り候

 ふ、若し本案に相違仕り候はば、當國鎮守厳島大明神の御罰を友重に罷り蒙るべく候

 ふ、此の旨を以つて御披露有るべく候ふ、恐惶謹言上る、

 

 「解釈」

 畏れながら申し上げます。さて、久嶋百姓の爲弘と同刀禰の友重が争い申し上げております名田のことですが、訴陳状を二問二答まで交換して、奉行所に進上するはずでした。しかし、その訴陳状を紛失したうえは、もとの草案を用いて新たに書き上げて進上するべきだとご命令になりましたので、もとの草案のとおりに書いて進上し申し上げます。もしもとの草案と異なり申し上げましたなら、安芸国鎮守厳島大明神の御罰を、友重の身に受け申し上げるに違いありません。この内容をもって御披露ください。

 

 「注釈」

「目安案文」─訴状の控え。文書名から、訴人(原告)は「友重」、論人(被告)は

       「爲弘」。

「爲弘」─玖島郷に爲弘名という名田があるので、そこの名主でしょうか。二三号文書

     参照。

「刀禰友重」─未詳。刀禰は名主とともに百姓らを代表して、政所に要求を出したり、

       庄務を補助する立場にあった(池享「中世後期における「百姓的」剰余

       取得権の成立と展開 」『大名領国制の研究』校倉書房、一九九五)、

       https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/18661)。

奉行所」─未詳。厳島社の奉行所でしょうか。

 

*この文書が作成されるまでの経過を推測してみます。訴人友重と論人爲弘が相論とな

 り、二度目の訴陳状も交換した。友重のもとには訴状の案文二通、陳状の正文二通が

 残されていたことになります。ところが、友重はその訴陳状を紛失してしまいます。

 そこで奉行所は、友重がもともと書き残していた草案(下書き)を用いて、書き直す

 ように命じました。友重はその命令を受けて、草案と同じ内容で訴状を書き直すこと

 を誓約し、その内容を厳島神主に披露してくれるように奉行所に申し上げた。

*このように解釈するなら、この目安は訴状(重申状・重訴状)ではないことになりま

 す。そもそも、名田に関する相論の内容が、まったく記されていません。これは、二

 問二答後に起きた不慮の?訴陳状紛失事件の事後処理について、原告が奉行所に提出

 した上申書ということになります。三問三答の訴陳とは別の、イレギュラーな目安

 (申状)と言えそうです。