周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

井上文書 その5

   一 五行祭文 その5

 

             (曰)                    (云)

 かるかゆへに、あるもんにいわく、ふもしよしやうしんそくせう大かくいとゆふ、

         (凡夫) (悪口)           (崇)   (經論)

 しかりといへともほんふハあくかうしんちうニして仏神ヲあかめす、きやうろんお

 (信)          (敬)    (罪業) (恐)       (心)

 しんせす、ふもしちやうおうやまわす、さいかうおヲそれす、いよゝゝこゝろおほし

       (間)      (魔)     (憎)  (悪霊) (悪魔)(悪)

 いまゝにするあいた、大六天のま王ハこれおにくミ、あくりやうあくまあく神鬼神

            衆生  (悩)    (道) (妨)   (眞智) (玉)

 あらミさきとなつて、しゆしやうおなやまし、仏とうヲさまたけ、しんちのたまお

 (奪)    (家)  (災難)  (起)    (身)(煩)  (致)

 うはいとり、いへにハさいなんおヲこし、そのミわつらいおいたさしむ、かるかゆへ

   (今)(信心)  (檀那)(無) (丹誠)  (運)         (眞)

 に、いましんしんの大たんなむ二のたんせいおはこひ、一心しやうゝゝゝま事お

 (致)         (廣前)    (諸々)  (供物) (供) (精誠)

 いたし、五形神のうつのひろまへにしかももろゝゝくもつおそなへ、せいゝゝお

                 (龍)  (始)(奉)    (行者)

 いたすところなり、はやゝゝ五たいりう王おはしめたてまつり、きやうしやヲ

 (加持) (施主) (守護)

 かちし、せしゆおしゆこし給へ、

   つづく

 

 「書き下し文」(必要に応じて、ひらがなを漢字に改めています)

 かるが故に、ある文に曰く、父母所生身速証大覚位と云ふ、然りと雖も凡夫は悪口甚

 重にして仏神を崇めず、経論を信ぜず、父母師長を敬わず、罪業を恐れず、愈々心を

 恣にする間、第六天の魔王は此れを憎み、悪霊悪魔悪神鬼神荒御崎となりて、衆生

 悩まし、仏道を妨げ、真智の玉を奪い取り、家には災難を起こし、其の身煩いを致さ

 しむ、かるが故に、今信心の大檀那無二の丹誠を運び、一心清浄真を致し、五行神の

 うつの広前にしかも諸々の供物を供へ、精誠を致す所なり、早々五大龍王を始め奉

 り、行者を加持し、施主を守護し給へ、

   つづく

 

 「解釈」

 だから、ある文に言うには、「父母から生まれた身のまま、速やかに大いなる悟りの境地に達することができる」と言う。そうではあるが、凡夫は悪口が甚だひどく仏神を崇めず、経論を信じず、父母や先生・年長者を敬わず、罪業を恐れず、ますます思いのままに振る舞うので、第六天の魔王は凡夫を憎み、悪霊・悪魔・悪神・鬼神・荒御崎となって、衆生を悩まし、仏道を妨げ、悟りを開いた智の玉を奪い取り、家には災難を起こし、その身を煩わせる。だから、いま神仏を信心している大檀那は、二つとない真心をもって、心を清浄にし、五行神の御前に様々な供物を供え、誠意を尽くすのである。早々に五大龍王に祈り申し上げ、行者に仏の力を与え、施主を守護してください。

   つづく

 

 「注釈」

「ある文」─『菩提心論』のことか。

「第六天の魔王」─仏語。第六天である他化自在天(仏語。六欲天の最高第六位に位す

         る天。この天に生まれたものは他の作り出した楽事を受けて自由に

         自分の楽とするという。魔王の住所とされる)には、この天の高所

         に別に魔王の住所があるとされたところからいう『日本国語大辞

         典』)。

「あらみさき」─「ミサキ」は民族的信仰生活の中で、ある時には神のように敬われ、

        ある地域では悪霊として恐れられ、ある場合には神の使者として畏れ

        られる存在。異常な死に方を遂げた者をミサキと呼ぶ場合もあり、ま

        た時にはある特定の地点をミサキと呼ぶ。より抽象的に言えば、ミサ

        キとは、空間的な境界・時間的境界・生と死の境界・人と神との境界

        を指す言葉だそうです(間﨑和明「ミサキをめぐる考察」(『社学研

        論集』8、2006・9、https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=15967&item_no=1&page_id=13&block_id=21)。この場合、「荒ぶる悪霊」のような存在

        と考えられます。

「五大龍王」─「五龍」。①中国古代の伝説的帝王。②中国で五行説に基づく五つの龍

       王。蒼龍、赤龍、黄龍、白龍、黒龍。角龍(木仙)、徴龍(火仙)、商

       龍(金仙)、羽龍(水仙)、宮龍(土仙)など。③中国の道教やわが国

       の陰陽道で雨乞いにまつる神。五龍神。④(イ)一蛇頭をもつ一頭龍王

       をはじめ、三頭、五頭、七頭、九頭の五つ。(ロ)嚩里迦龍王、母止隣

       陀龍王、阿難陀龍王、無熱悩龍王、娑竭羅龍王の五つ。(ハ)一七一龍

       王の一つ(『日本国語大辞典』)。