周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

自死の中世史 10 ─古代史の研究紹介─

 自死の中世史と言いながら、なかなか中世にたどり着かないまま、ここまで古代の史料を紹介してきました。古代の自死を正面から分析した研究はないのかと思っていたのですが、最近その論文に出会えたので紹介します。こうした研究があると知っていれば、わざわざ駄文を書き連ねることもなかったのですが…。

 以下に紹介する2論文は、歴史学を専門にされている方ではなく、医学(精神神経科学)を専門にされている方がお書きになっているものです。日本史の研究者は、こういうテーマにあまり興味がないのかもしれません。

 

 

 鈴木英鷹「古代の日本人の自殺について─『日本書紀』の自殺記事による検討」

                    (『精神医学』53─2、2011・2)

 この論文はタイトルにもあるように、『日本書紀』を素材に自殺の事例を抽出し、分析を加えられています。そして、世のため、人のために自殺することは、古代日本の風習であったと結論づけられています。以下、その他の分析結果について、簡単に紹介します。

 

 1、自殺の事例数と男女数

 全部で32例。性別が確定できる事例は28例で、男性21例、女性7例。75%が男性だった。

 2、自殺の年齢

 自殺時の年齢が判明するのは、2事例のみで、大友皇子25歳、山辺皇女18歳。

 3、自殺理由

 「殉死」8例、「戦闘中勝を得ざるを知り」7例、「重刑を予知」6例、「身代わり」4例、「苦しみから逃れるため」2例、「内乱が起こり人民を苦しめることを避けるため」「即位を辞退して」「冤罪に抗議して」「不敬を悔いて」「友人の死を悼んで」がそれぞれ1例ずつ。

 4、自殺方法

 「自経(縊死)」7例、「頸を刺す」5例、「自刎(自分で首をはねる)」2例、「入水」4例、「剣に伏す」「焚死」「絶食死」「投身」がそれぞれ1例。「不明」10例。「自経」「頸を刺す」「自刎」など首に関係する方法が14例と全体の約44%。

 

 

 鈴木英鷹「奈良から平安初期における日本人の自殺─『続日本紀』『日本後紀』によ

      る検討─」(『日本医事新報』4517、2010・11)

 この論文は、『続日本紀』と『日本後紀』から自殺の事例を抽出し、分析した研究です。以下、簡単に紹介します。

 

 1、自殺の事例数と男女数

 『続日本紀』は全5事例、そのうち性別が判明するのは4例で、すべて男性。『日本後紀』は全4事例で、男女各2例。

 2、自殺理由

 『続日本紀』の自殺理由は、「勝を得ざるを知り」「詰問に苦しみて」「左遷に失望して」「詐欺」「印書偽造」がそれぞれ1例ずつ。『日本後紀」では、「勝を得ざるを知り」が3例、不明1例。

 3、自殺方法

 『続日本紀』では、「自経(縊死)」が4例、「不明」1例。『日本後紀』では、「服毒」3例、「自経」1例。

 

 結論では、次のようにまとめられています。

 『日本書紀』の自殺記事を通してみた藤原京までの日本人の自殺理由の特徴は、道徳、慣習上の犠牲、あるいは法律に背いた自責観念により自殺する場合が多い。

 『続日本紀』『日本後紀』の自殺記事における奈良〜平安時代初期の自殺理由の特徴を検討した結果、「左遷に失望して」「詐欺」「印書偽造」など、『日本書紀』では見られなかった自殺の理由が登場した一方で、『日本書紀』にあった「殉死」は見られなかった。