周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

酒好きの狸 (A raccoon dog loves sake)

「妖怪 酒狸(さけだぬき)」

  応永二十四年(1417)五月八日条

         (『看聞日記』1─125頁)

 

 八日、晴、勝阿参、一献持参、抑聞、今日一条辺酒屋下女一人来、取酒則飲帰之処、

  犬来吠之、下女仰天逃去、人々犬を追、而犬猶走懸為食令叫喚、然間帽子ヲ落了、

  頭毛生有耳、其時はけ物露顕、万人群集捕之縛了、忽古狸成了、打擲引行之

  間死云々、希代不思儀事也、

 

 「書き下し文」

 八日、晴る、勝阿参る、一献持参す、抑も聞く、今日一条辺りの酒屋に下女一人来る、酒を取りて則ち飲みて帰るの処、犬来りて之に吠ゆ、下女仰天し逃げ去る、人々犬を追ふ、而して犬猶ほ走り懸かり食はんとして叫喚せしむ、然る間帽子を落とし了んぬ、頭に毛生ゆる耳有り、其の時ばけ物露顕す、万人群集し之を捕らへ縛り了んぬ、忽ち古狸に成り了んぬ、打擲し引き行くの間死ぬと云々、希代の不思儀の事なり、

 

 「解釈」

 八日、晴れ。勝阿が一献のお酒を持って来た。さて聞くところによると、今日、京都の一条辺りの酒屋に一人の下女がやって来て、酒を注文してすぐに飲んで帰ろうとしたそうだ。その帰り際に、犬が来て、その下女に吠えかかった。下女は驚いて逃げ出した。下女につきまとう犬を人々も追いかけた。そして犬はなおも下女に噛みつこうとして走り懸かっていき、吠えた。そうしたら、下女のかぶっていた帽子が落ちた。なんとこの下女の頭の上には、毛が生えている耳があった。それで、この下女が化け物だと分かった。そこへ大勢の人々が集まってきて、この化け物を捕まえ縛りつけた。そうしたら、下女はたちまち年老いた狸の姿になってしまった。人々が殴りつけ、引きずり回したので、狸は死んでしまったそうだ。まれにみる不思議な出来事だ。

 

 May 8th. Sunny. Well, I heard the following story. A servant came to a liquor store near the Ichijo district in Kyoto and immediately tried to drink and return. When she was going home, a dog came and barked at her. She ran away in surprise. People chased the dog that was chasing her. Furthermore it approached her to bite. Then the hat she was wearing fell. At the top of her head was a hairy ear. So people realized she was a monster. A lot of people gathered there and caught and tied up this monster. Then she quickly turned into an old raccoon dog. It died because people beat it and dragged it around. It is a very rare and strange event.

 (I used Google Translate.)

 

 

*解釈、注釈は、薗部寿樹「『看聞日記』現代語訳(五)」(『山形県立米沢女子短期大学紀要』51、2015・12、https://yone.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=209&item_no=1&page_id=13&block_id=21)を引用しました。

 

 

【考察】

*まるで、「まんが日本昔ばなし」のような話です。下女に化けた古狸は、ちゃんとお金を払ったのでしょうか。やはり、定番通り、葉っぱをお金に変えたのでしょうか。とても気になります。

 それにしても、中世人は残酷です。古狸は酒を買って飲んだだけなのに、それを殴りつけ、引きずり回して殺してしまうのですから。こんな物語を子ども向けにテレビで放映しようものなら、すぐにSNSで親からクレームがつけられて炎上し、BPOで審議されることになるのでしょう。どちらも、怖い世の中です。