周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

竹林寺文書(小野篁伝説) その6

    一 安芸国豊田郡入野郷篁山竹林寺縁起 その6

 

*送り仮名・返り点は、『県史』に記載されているものをそのまま記しています。ただし、大部分の旧字・異体字常用漢字で記載し、割書は〈 〉で記載しました。本文が長いので、いくつかのパーツに分けて紹介していきます。なお、書き下し文や解釈については、森下要治監修・解説『篁山竹林寺縁起』(広島大学デジタルミュージアム・デジタル郷土図書館、http://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/portal/dc/kyodo/chikurinji/top.html)を参照しながら作成しました。ここに、竹林寺や縁起絵巻の情報が詳細に紹介されています。

 

 

   ラニ リ        ツハウ     ハ  レ メ   ニ    ツヽマテ シ

 又傍 在八寒地獄、先皰地獄之有情、被寒苦身肉巻縮而如

 ハタエカサノ□ル   ニ    クルシミハ   ハ ヲ ルヽ ウミチ レルコト シ

 膚 瘡 皰、 次烈地獄之 苦、  寒猶勝故膿血流出  無限、

  ニ セツコ  ノ  ハ  レテ   ニ サケフ  シ  ノ    ニクハツヽヽヽハ

 次歌折沽地獄之衆生、被苦痛叫音如歌折、 次 攉 々 婆 

      ハ  テ メ   ニ サケフ シ    カ   ニ ココ    ノ ハ

 地獄之有情、被寒苦一 哽声若攉々叫、 次虎𨔛婆地獄之罪人、

  テ     ニ  ヒヽキ テ   ニ リ コ ノ ル ニ   ニ     ノ  ハ

 被寒苦叫哽響 当天地虎之吠音、次青蓮地獄之有情、

  テ    ニ    サケツラナルコト   シ     ノ   キウミ テ  タリ[  ]

 被寒苦身分 割 烈  而 如八葉蓮花、青膿流而似青蓮花

 □      クルシミハ     ナルコト シ           ル   ク

 次紅蓮地獄之苦、  身分割烈而 如百葉蓮華、赤血流出故名紅蓮

          シミハ    ナルコト シ   ノ  ムラサキノ チ レ ルヽ ニ

 次大紅蓮地獄之ノ苦、身分割烈   如千葉蓮華、紫  血流注故

  ク    ト   テ    ノ  ノ  ノ テイタラク ス テ  モ  ムネモ テ  レニ 

 名大紅蓮、惣而八寒八熱十六地獄為躰  不目、 心 銷而哀

  レニ ヘケリ

 哀 覚鳬、

     (絵17)

   レハ    ノ  ヲ   ヲノヽヽ エ   ノ   ヲ  リ  ナルカナヤ   ノ

 又見大地獄之四門者、各  構四種之増地獄鳬、 哀 哉大地獄衆生

 タマヽヽ テ  ヲ  ヒ ヒニ  ニ ゲ ル キ      ス  ノ        ヲ ルニ

 適  得其隙而思々四門逃出時、  重而堕彼近辺地獄其在様見、

  ツトウアイ ノクルシミハ ヲキアツハイ  ノ リモ  カク シテ キ ナヤマス 

 先煻煨地獄之苦、   煻 煨  罪人従齊高充満焼身悩、

  ニ シフン  ノ ミハ フンテイマンヽヽ トシ  ノ リモ  シ  ラウコタ ハ ク  テ

 次屍糞地獄之苦、 糞泥漫々而   罪人従口高、娘炬吒虫多聚而

 カンテ  ヲ ス     ヲ  ニ フニン    ミハ         シ シテ     キニ

 穿身肉骨髄、次鋒刃地獄之苦、草木山河大地無一不

  ヨリヽヽ ケハケン チ テ トウス ウヲ   ヲ ケハ  チキル  ニ       ノ ミハ

 時々 風吹剣葉落散而 徹身頭、道行者剣地切足、次烈河地獄之苦、

    レタル リ     レニ スル   ハ ル ハ ヒ シツミ  ル ハ ニ  ルヽコト

 熱湯流  在大河、彼 堕衆生或時浮沈、  或時順逆流  

  シ ノ カ     テ  ノ ヲ スキトリ   テ ノ ヲ  ツキ ツラヌク 在 レハ

 如魚遊、獄率以鉄網而漉之、以鉄鉾而挡串之様見

  セニ  モ リ

 失肝魂鳬、

     (絵18)

  ソ      ノ    ニ リ      ノ          ノ ヲ   モカナシク

 凡一百三十六所地獄之外在孤独無量地獄、不其数、見悲  

  モモノウク フ ニ    リ テ      ヲ チシハリ  リ ケ ヲ ヲヒタテヽヽヽヽ

 聞 慵  思処、獄率走寄而関白良相打縛  振挙楉遂立遂立、

  ス ス      ニ

 欲大地獄

     (絵19)

         ハ コサヲ チ リ テ  ノ チ リ  テ  ヲ ク   ハ  テ

 爰第三冥官宗帝王、御座 立去給而良相許立寄而引耳曰、汝者於娑婆

  モ             タ     ト フ エ ヒ リ

 雖大般若経書写願果、可言教給鳬、

     (絵20)

   つづく

 

 「書き下し文」

 又傍らに八寒地獄在り、先づ皰地獄の有情は、寒苦に迫められ身肉巻き縮みて膚瘡の皰のごとし、次に烈地獄の苦しみは、寒は猶ほ勝るる故膿血流れ出でること限り無し、次に歌折沽地獄の衆生は、苦痛に迫められて叫ぶ音歌折のごとし、次に攉々婆地獄の有情は寒苦に迫められて叫ぶ声攉々と叫ぶがごとし、次に虎𨔛婆地獄の罪人は寒苦に迫められて叫哽の響き天地に当て虎の吠ゆる音に似たり、次に青蓮地獄の有情は、寒苦に迫められて身分け割け烈なること八葉蓮花のごとし、青き膿流れて青き蓮華に似たり、次に紅蓮地獄の苦しみは、身分け割け烈なること百葉蓮華のごとし、赤き血流れ出づる故に紅蓮と名づく、次に大紅蓮地獄の苦しみは、身分け割け烈なること千葉蓮華のごとし、紫の血流れ注がるる故に大紅蓮と名づく、惣じて八寒八熱の十六の地獄の為体目も当てず、心も銷きて哀れに覚へけり、

     (絵17)

 又大地獄の四門を見れば、各々四種の増地獄を構へけり、哀れなるかな大地獄の衆生適々其の隙を得て思ひ思ひに四門に逃げ出づる時、重ねて彼の近辺の地獄に堕す、其の在り様を見るに、煻煨地獄の苦しみは、煻煨罪人の背よりも高く充満して身を焼き悩ます、次に屍糞地獄の苦しみは、糞泥漫々とし罪人の口よりも高し、娘炬吒虫は多く聚まりて身肉を穿つて骨髄吸はんとす、次に鋒刃地獄の苦しみは、草木山河大地一として剣きに有らざるは無し、時より時より風吹けば剣葉落ち散りて身頭を徹す、道を行けば剣地足を切る、次に烈河地獄の苦しみは、熱湯流れたる大河在り、彼に堕する衆生は或る時は浮かび沈み、或る時は順逆に流るること魚の遊ぶがごとし、獄卒鉄の網を以て之を漉り、鉄の鉾を以て之を挡き串く在り様を見れば肝魂も失せにけり、

     (絵18)

 凡そ一百三十六所の地獄の外に孤独無量の地獄在り、其の数を知らず、見るも悲しく聞くも慵く思ふ処に、獄卒走り寄りて関白良相を打ち縛り楉を振り挙げ逐ひ立て逐ひ立て、大地獄に堕とすとなさんと欲す、

     (絵19)

 爰に第三の冥官宗帝王は、御座を立ち去り給ひて良相の許に立ち寄りて耳を引きて曰く、汝は娑婆に於いて大般若経書写の願ひ在りと雖も未だ果たさずと、言ふべしと教へ給ひけり、

     (絵20)

   つづく

 

 「解釈」

 またそばに八寒地獄がある。まず皰地獄の衆生は、寒苦に責められて身体はちぢこまり、肌には天然痘が生じているかのようだった。次に烈地獄の苦しみは、寒さが(皰地獄よりも)さらにひどいため、血膿が流れ出ることこのうえない。次に歌折沽地獄の衆生は苦痛に責められて、叫ぶ声は下手な歌声のようである。次に攉々婆地獄の罪人は寒苦に責められて、叫び声の響きは天地に向けて虎が吠える声に似ていた。次に青蓮地獄の衆生は寒苦に責められ、彼らの体が割かれて連なる様子は八葉の蓮華のようであった。青い膿が流れて青い蓮華に似ていた。次に紅蓮地獄の苦しみは、衆生の体が割かれて連なっている様子は百枚もの葉が重なった蓮華のようである。赤い血が流れ出るがゆえに、紅蓮と名付けている。次に大紅蓮地獄の苦しみは、衆生の体が割かれて連なる様子は、千枚もの葉が重なった蓮華のようである。紫の血が流れ注がれるがゆえに大紅蓮と名付けている。そうじて八寒八熱の十六の地獄の様子には目も当てられず、意気消沈し気の毒に思われた。

     (絵17)

 また大地獄の四門を見ると、それぞれに四種類の増地獄があった。なんとも気の毒である大地獄の衆生は、たまたま獄卒らの隙を突いて、思い思いに四門に逃げ出したとき、再び近辺の地獄に堕ちる様子を見ると、まず煻煨地獄の苦しみは、埋み火の熱い灰が罪人の背丈よりも高く積もっていて、罪人の身を焼いて苦しめている。次に屍糞地獄の苦しみは、糞の泥沼が果てしなく広がり罪人の口よりも高い。娘炬吒虫が多く集まって身肉を食い破り、骨髄を吸おうとする。次に鋒刃地獄の苦しみは、草木山河大地に、一つとして鋭くないものはない。時折風が吹くと、剣の葉が落ち散って罪人の頭から体を貫く。道を行くと剣が並び立っている地面で足を切る。次に烈河地獄の苦しみは、熱湯の流れている大河があり、そこに堕ちた衆生は、あるときは浮かんだり沈んだりし、あるときは順逆に流れたりする様子は、魚が泳いでいるかのようだ。獄卒は鉄の網で罪人たちをすくい取り、鉄の鉾で彼らを突き貫く様子を見ると、正気を失ってしまった。

     (絵18)

 さて、136ヵ所の地獄の他に、孤独無量の地獄がある。その数は分からない。見るも悲しく聞くもつらいと思っていたところに、獄卒が走り寄って関白藤原良相をきつく縛り、楉を振り上げて追い立て追い立て、大地獄に堕とそうとした。

     (絵19)

 ここに第三の冥官宗帝王は、御座をお立ち去りになって、良相のもとに立ち寄り、彼の耳を引いて言うには、「お前は現世で大般若経の書写の願いをもっていたけれど、まだその願いを果たしていない」と言うのがよいと教えなさった。

     (絵20)

   つづく

 

 「注釈」

「皰瘡」

 ─疱瘡のことか。「いもがさ」天然痘の古名。また、そのあと。あばた。もがさ。いも。いもい。いもがお。「ほうそう」天然痘の別称。また、種痘やその痕をさしてもいう。疱痘(『日本国語大辞典』)。

 

「齊」─「背」の当て字か。