周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

井上文書 その6

   一 五行祭文 その6

 

 (抑)     (行)     (木)       (阿閦佛)  (招提龍)

 そもゝゝかの五きやうのはしめもく神と申ハ、東方あしゆくふつしやうたいりう王と

 (現)  (青)(色)  (以) (春)  (甲)(乙)   (領)       (火)

 けんし、あおきいろおもんて、はる三月きのへきのの方りやうし給へ、つきにくわ神

      (寶生)   (釋提龍)         (赤)       (夏)

 申ハ南方ほうしやう如来やくたいりう王とけんし、あかきいろおもんて、なつ三月

 (丙)(丁)  (巳午)            (金)     (阿彌陀)

 ひのへひののミむまの方りやうし給へ、つきニこん神と申ハ西方あミた如来やくた

      (現)  (白) (色)    (秋) (庚) (辛) (申酉)

 いりう王とけんし、しろきいろおもんて、あき三月かのへかののさるとり方りやうし

       (水)      (釋迦牟尼)              (黒)

 給へ、つきにすい神と申ハ北方しやかむに如来こくたいりうとけんして、くろきいろ

      (冬)  (壬) (癸)  (亥子)          (土)

 おもんて、ふゆ三月ミつのへミつののいねの方りやうし給ふ、つきにと神と申ハ、中

                   (黄)       (季)(土用)(丑)(辰)

 央大日如来おうたいりやう王とけんし、きなるいろおもんて四きのとよううしたつ

 (未) (戌)           (智)         (降) (世明)

 ひつしいぬりやうし給へ、あるいハ五ちの如来といんハ、東方かう三せミやう王とけ

      (圓鏡智)   (生)    (鈷ヵ)(印) 梵字)(字)(誦)

 んして、大ゑんきやうちおしやうして、五このいんおもんて⬜︎しおしゆして、さうち

       (肝) (臓)(加持)      (軍荼利夜明)

 やうおもんてかんのさうおかちしたまう、南方くんたりやミやう王とけんし、

  (平等性智)         (寶珠)  (印)  梵字)(字)

 ひやうとうしやうちおしやうし、ほうしゆのいんおもんて⬜︎しおしゆし、おうしきち

       (心) (臓)         (威徳夜叉明)

 やうおもんてしんのさうヲかちし給ふ、西方大いとくやしやミやう王とけんし、

  (妙観察智)                     (字)

 ミやうくわんさんちおしやうし、八ようのいんおもんて、 しおしゆして、ひやうち

       (肺) (臓)         (金剛夜叉明)

 やうおもんてはいのさうおかちし給ふ、北方こんかうやしやミやう王とけんして、

  (成所作智)      (羯磨) (印)  梵字)(字)

 しやうささちおしやうし、かつまのいんおもんて⬜︎しおしゆし、はんしきちやうおも

   (腎) (臓)          (動脱)     (法界體性智)

 んてしんのさうおかちし給ふ、中央大聖不明王とけんし、ほうかいたいしやうちお

 (生)    (鈷ヵ)(印)  梵字) (誦)           (脾)(臓)

 しやうして、五このいんおもんて⬜︎字おしゆし、一こつちやうおもんてひのさうお

 (加持)

 かちし給ふ、

   つづく

 

 「書き下し文」(必要に応じて、ひらがなを漢字に改めています)

 抑も彼の五行の始め木神と申すは、東方阿閦仏・青体龍王と現じ、青き色を以て、春

 三月甲乙の方を領し給へ、次に火神と申すは、南方宝生如来・赤体龍王と現じ、赤き

 色を以て、夏三月丙丁の巳午の方を領し給へ、次に金神と申すは、西方阿弥陀如来

 白体龍王と現じ、白き色を以て、秋三月庚辛の申酉の方を領し給へ、次に水神と申す

 は、北方釈迦牟尼如来・黒体龍王と現じて、黒き色を以て、冬三月壬癸の亥子の方を

 領し給ふ、次に土神と申すは、中央大日如来・黄体龍王と現じ、黄なる色を以て四季

 の土用丑辰の未戌を領し給へ、或いは五智の如来というは、東方降三世明王と現じ

 て、大円鏡智を生じて、五鈷の印を以て[梵字]字を誦して、双調を以て肝の臓を加

 持し給う、南方軍荼利夜叉明王と現じ、平等性智を生じ、宝珠の印を以て[梵字]字

 を誦し、黄鐘調を以て心の臓を加持し給ふ、西方大威徳夜叉明王と現じ、妙観察智を

 生じ、八葉の印を以て、 字を誦して、平調を以て肺の臓を加持し給ふ、北方金剛夜

 叉明王と現じて、成所作智を生じ、羯磨の印を以て[梵字]字を誦し、盤渉調を以て

 腎の臓を加持し給ふ、中央大聖不動明王と現じ、法界体性智を生じて、五鈷の印を以

 て[梵字]字を誦し、壱越調を以て脾の臓を加持し給ふ、

   つづく

 

 「解釈」

 さて、この五行神の始め木神と申すのは、東方阿閦仏・青体龍王として姿を現し、青い色をもって、春の三ヶ月、東の方角をお治めになる。次に火神と申すのは、南方宝生如来・赤体龍王として姿を現し、赤い色をもって、夏の三ヶ月、南の南東(南南東)の方角をお治めになる。次に金神と申すのは、西方阿弥陀如来・白体龍王として姿を現し、白い色をもって、秋の三ヶ月、西の南西(西南西)の方角をお治めになる。次に水神と申すのは、北方釈迦如来・黒体龍王として姿を現し、黒い色をもって、冬の三ヶ月、北の北東(北北東)の方角をお治めになる。次に土神と申すのは、中央大日如来・黄体龍王として姿を現し、黄色を持って、四季の土用、北東と南西をお納めになる。あるいは、五智の如来というのは、東方降三世明王として姿を表し、大円鏡智を生み出し、五鈷の印をもって[梵字]を双調の音で唱えることによって、肝の臓をご加護になる。南方軍荼利夜叉明王として姿を現し、平等性智を生み出し、宝珠の印をもって[梵字]を黄鐘調の音で唱えることによって、心の臓をご加護になる。西方大威徳夜叉明王として姿を現し、妙観察智を生み出し、八葉の印をもって、[梵字]を平調の音で唱えることによって、肺の臓をご加護になる。北方金剛夜叉明王として姿を現し、成所作智を生み出し、羯磨の印をもって、[梵字]を盤渉調の音で唱えることによって、腎の臓をご加護になる、中央大聖不動明王として姿を現し、法界体性智を生み出して、五鈷の印をもって、[梵字]字を壱越調の音で唱えることによって、脾の臓をご加護になる。

   つづく

 

 「注釈」

「五智」

大日如来が備え持つという五種の知恵の総称。密教で、法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智の五つとする(『日本国語大辞典』)。

 

「大円鏡智」

 ─仏語。仏の四智・五智の一つ。有漏の第八阿頼耶識を転じてうる無漏智で、大きな円鏡が万物の影をことごとく映すように、すべての真実を照らし知る仏の智恵。密教では金剛という。大円鏡(『日本国語大辞典』)。

 

「双調」

 ─雅楽十二律の音名の一つ。基音である壱越から.六番目の音。トの音に相当(『日本国語大辞典』)。

 

「平等性智」

 ─仏語。①唯識宗でたてる四智の一つ。末那識から転じて得られる智恵。彼此の差別にとらわれず、平等であると悟る智。②密教で説く大日如来の五智の一つ。事物は本来平等であると悟る智慧。五仏のうち開敷華王仏に配当される(『日本国語大辞典』)。

 

「黄鐘調」

 ─雅楽六調子の一つ。黄鐘の音(イ音)を主音、すなわち宮音とする旋法。おうしき(『日本国語大辞典』)。

 

「妙観察智」

 ─仏語。四智・五智の一つ。存在の相を正しくとらえ、仏教の実践を支える智。第六識(意識)を転じて得られるという(『日本国語大辞典』)。

 

「平調」

 ─①雅楽十二律の音名の一つ。基音である壱越から三番目の音。ホの音に相当する。②雅楽の六調子の一つ。平調の音を主音、すなわち宮音とする調子(『日本国語大辞典』)。

 

「成所作智」

 ─仏語。唯識論で四智の一つ。密教では五智の一つ。諸仏が一切衆生を聖道に入らせるために、種々の神通を現ずる作業を成就完成していること(『日本国語大辞典』)。

 

「盤渉調」

 ─雅楽、唐楽の六調子の一つ。盤渉(洋楽のロ)の音を主音にした調べ(『日本国語大辞典』)。

 

「法界体性智」

 ─真理の世界の本性を明確にする智(山下琢巳「修験道〈五體本有本来佛身〉説」『東京成徳短期大学紀要』第38号、2005年、http://www.tsc.ac.jp/library/bulletin/detail/pdf/38/t_yamashita.pdf)。

 

「壱越調」

 ─雅楽の六調子の一つ。壱越の音、すなわち洋楽音名の「ニ」の音(d)を主音とした音階(『日本国語大辞典』)。