以前、「古代史の研究紹介1」(「自殺の中世史10」)で、鈴木英鷹氏の論文を紹介しましたが、その引用文献のなかに、かなり古い歴史学者の論文がありました。最近、それをやっと読むことができたので、ここで紹介しておきたいと思います。
(初出『風俗研究』142・147・154・161号、1932・3、8、
1933・3、10)
きちんと探せばもっと古いものがあるのかもしれませんが、これが自殺を本格的に研究した歴史学者の最初の論文だと思います。戦前の論文なのですが、各時代ごとに自殺の原因や方法を分類していて、とても参考になります。本当は、鎌倉時代以降についても検討するつもりだったようですが、未完に終わっていることが残念です。
以下、この論文の要点を示しておきます。
1、古代の自殺の原因
①いずれ近く殺されなければならないので、自殺する場合。
→死刑囚、あるいは大罪を犯して捕らえられた人に多い。
②精神的・肉体的な苦痛を免れようとして自殺する場合。
→被疑者として捕らえられ詰問に苦しむ人や、戦争で捕らえられた悔しさを抱い
ている人。
③神のため、国のため、人のために自殺する場合。
2、古代の自殺の方法
投身、焚死、自刃、縊死、生埋。縊死を選ぶものが多く、自刃がこれに続く。
3、平安時代の自殺の原因
①自己の罪悪を認め、これを詫びるために自殺を選ぶ。
②人手に掛かるより自殺したほうがよいとする場合。
→敵の威に恐れおののいて自殺する。
③一家一身の破滅、失恋等の精神の苦痛(無念)を免れるための自殺。
④浄土信仰が発達して、愛人が死ねばその後を追うという観念。
→跡追心中。自発的殉死。
⑤神仏信仰に関しての自殺。
→生贄。奉仕。
⑥公共のための自殺。
→人柱。
4、平安時代の自殺の方法
毒薬、投身、舌を噛み切る、切腹、切腹して入水、太刀の峰を口に含み落馬、二人共同で互いに刺し違えて死する、家に火をかけて自害、栄養不良により死を早める。水死は婦人に多く、刃は男子、なかでも武人に多い。
5、鎌倉時代の自殺の原因
自殺原因ともみられるものを『太平記』その他から探してみると、戦場に臨み、敗戦の憂き目を見、敵の手にかかるよりは、自分の手で命を絶つという、切羽詰まって自殺する者が大部分を占めている。その他に、失恋、跡追心中、殉死がある。
6、鎌倉時代の自殺の方法