周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

熱してもお湯にならない水 (Water that does not warm when heated)

    応永三十四年(1427)八月十日条  (『満済准后日記』上─444頁)

 

 十日。晴。(中略)

  宝池院自去五日歓喜天供始行。今暁結願云々。被相語云。結願沐浴ノ為多羅ニ入

  水如常居火上温処。此水更ニ不温。余ノ不審ノ故。多羅ノ中ヲ見処ニ。塵ノ様

  ナル物二有間。トリノケントスル処。非塵小魚二在之。火上ニ数刻雖置此魚

  不死、仍忩此水ヲ捨テ重テ又入水。数刻火上ニ雖居如前不温間。若此閼伽井水

  不浄故カトテ。於尊前御鬮ヲ取ル処ニ。余ノ井水ヲ取ルヘシト云々。仍別ノ

  井水ヲ取テ温処。如常水温。沐浴無相違云々。本尊奇特珍重々々。

 

 「書き下し文」

 十日、晴る、(中略)

  宝池院去んぬる五日より歓喜天供を始め行なひ、今暁結願す云々、相語られて云く、結願沐浴のため多羅に水を入れ、常のごとく火の上に据ゑ温むる処、此の水更に温まらず、余りの不審の故、多羅の中を見る処に、塵の様なる物二つ有るの間、取り除けんとする処、塵に非ずして小魚二つ之在り、火の上に数刻置くと雖も此の魚死なず、仍て忩ぎ此の水を捨て重ねて又水を入る、数刻火の上に据うと雖も前のごとく温まらざるの間、若しや此の閼伽井の水不浄の故かとて、尊前に於いて御鬮を取るの処に、余りの井水を取るべしと云々、仍て別の井水を取りて温むるの処、常のごとく水温まり、沐浴相違無しと云々、本尊の奇特珍重々々、

 

 「解釈」

 十日、晴れ。(中略)

  宝池院は去る八月五日から歓喜天供を始め、今日の明け方に結願したという。宝池院が私と語り合いなさっていうには、結願の沐浴のために鉢に水を入れ、いつものように火の上に置いて温めたところ、この水がまったく温まらなかった。あまりに不審だったので、鉢の中の見たところ、塵のようなものが二つあったので、取り除こうとしたところ、塵ではなく小魚が二匹いた。火の上に数刻(一、二時間ほどか)置いたが、この魚は死ななかった。そこで、急いでこの水を捨て、改めてまた水を入れた。数刻ほど火の上に置いたが、前と同じように温まらないので、もしかするとこの閼伽井の水が穢れているからかと思って、仏前で鬮を引いたところ、閼伽井の残った水を取ればよいという結果だったそうだ。そこで、残った井戸の水を汲んで温めたところ、いつものように水が温まり、沐浴することができたという。本尊の霊験はたいそうすぐれている。

 

 It was sunny on August 10. (Omitted)

 Houchiin-Giken (priest's name) started praying on August 5th and finished praying this morning. Giken told me, “When I put water in a bowl to cleanse my body and heated it with fire as usual, this water did not warm at all. I was very wondering and I looked inside the bowl. There were two things like dust in it, so I tried to remove it, but it wasn't dust, but two small fish.I heated the bowl for an hour or two, but the fish did not die. So I hurriedly threw away this water and put it in again. I heated the bowl again for an hour or two, but it didn't warm up as before. I thought it was because the water in the well was dirty, so I drew an oracle in front of Buddha. The oracle was to take the remaining water from the well. Then, when I got the water from the remaining well and warmed it up, the water warmed as usual and I was able to cleanse my body with water. "The miracle caused by the Buddha is very good.

 (I used Google Translate.)

 

 

 「注釈」

「宝池院」

 ─三宝満済の弟子、宝池院義賢。足利満詮の子息(伴瀬明美「室町期の醍醐寺地蔵院」『東京大学史料編纂所研究紀要』26、2016・3、http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/publication/kiyo/kiyo0026.html)。

「多羅」─「鉢多羅」、つまり鉢のことか。

「居」─「据」か。

 

*今回は水にまつわる不思議な話です。火にかけても温まらない。ただそれだけです…が、この物理法則を軽く無視しているところがなんともオモシロいです。水が穢れていたからかどうかもはっきりしないのですが、本尊の前で鬮を引いたことによって、閼伽井の水は普通の温められる水に戻ったようです。この世には、理屈では説明できないことがたくさんありそうです。