周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

姿の見えない帯商人とデカい女 (Yokai Obi merchant and female titan)

    永享二年(1430)十二月十二日条  (『満済准后日記』下─197頁)

 

 十二日。晴。(中略)

  室町殿御所種々怪異尚不断絶云々。何日事哉らん。常御座所前御庭ニテ帯ヲ

                      (之イ)

  商売ス。女声也〔云々〕。忩被出人被見処不見候。希代事也。又西向御台御座所

  御庭軒トヒトシキ大女出現云々。

 

 「書き下し文」

 十二日。晴る。(中略)

  室町殿御所の種々の怪異尚ほ断絶せずと云々、何日の事やらん、常の御座所の前の御庭にて帯を商売す、女の声なりと云々、忩ぎ人を出だされ見せらるる処見えず候ふ、希代の事なり。又西向の御台御座所の御庭の軒と等しき大女出現すと云々、

 

 「解釈」

 十二日。晴れ。(中略)

  室町殿の御所のさまざまな怪異が依然として止まらない。何日のことであったろうか。常の御座所の前のお庭で帯を商売していた。女の声だったという。急いで人を出して、実見させなさったところ、その姿は見えませんでした。不思議なことである。また西向の御台所(日野宗子)の御座所の御庭の軒と同じぐらいの大きな女も出現したそうだ。

 

 Various strange phenomena have occurred in the general's mansion. The date is not clear, but the general heard a woman selling obis in the garden in front of the living room. He hurriedly dispatched a servant to confirm, but could not see the woman. It is strange. A woman as large as the eaves of his wife's living room has also appeared.

 (I used Google Translate.)

 

 

 「注釈」

 今回も、「女性」の物の怪が現れました。幽霊なのか妖怪なのか明確に区別できないうえに、取り立てて悪さをするわけでもないので、何が目的で現れたのかさっぱりわかりません。

 一人は、「帯売り幽霊」。もう一人は、ただデカいだけの妖怪「大女」。人間を襲うことはないようなので、わりと善良な物の怪なのかもしれませんが、それにしても、京都というところは物騒なところです。

 

 

2020.2.13追記

 妖怪「大女」の記事を追加しておきます。

 

  嘉吉三年(1443)八月十日条  (『図書寮叢刊 看聞日記』7─44頁)

 

 十日、晴、(中略)

  室町殿ニハ有妖物、七尺計之女房・大入道等御所中行云々、於于今不可有御座、

  可被新造云々、庭松笠、虎参結之、

 (頭書)

 「或人のよりあふおとなひ、屋なり等有奇異事云々、」

 

 「書き下し文」

  室町殿には妖物有り、七尺ばかりの女房・大入道ら御所中を行くと云々、今に於いて御座有るべからず、新造せらるべしと云々、庭の松笠、虎参り之を結ふ、

 (頭書)

 「或いは人の寄り合ふ音なひ、屋なり等奇異の事有りと云々、」

 

 「解釈」

  室町御所には妖怪がいる。七尺(210㎝)ほどの女房と大入道らが御所中を徘徊しているそうだ。公方様(足利義政)はそこにいらっしゃるべきではなく、御所を新造するのがよいという。虎菊(善阿弥)がこちら(伏見御所)に参上し、庭の松に笠を作る整枝を行なった。

 「一方では、人が寄り集まっている物音や、家鳴などの怪異があったという。」

 

 「注釈」

「松笠を結ふ」

 ─松の枝葉を扁平な笠状に形づくって、何段かに重ねるもので、刈り込みの一種(吉永義信「わが国の中世における刈込について」『造園雑誌』16─1、1952・7、20頁、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1934/16/1/16_1_19/_article/-char/ja/)。

 

「虎」

 ─虎菊・善阿弥。将軍に重用された造園土木を職能とする庭者(林まゆみ・李樹華「善阿弥とその周辺の山水河原者に関する再検討」『ランドスケープ研究』64─5、2001・3、403・404頁、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/64/5/64_5_403/_article/-char/ja/)。

 

「屋なり」

 ─家鳴。家屋が鳴り響くこと。また、その音(『精選番日本国語大辞典https://kotobank.jp/word/家鳴-2089364)。今回の史料は違いますが、「家鳴り・屋なり・屋なり」と呼ばれる妖怪もいるそうです(国際日本文化研究センター『怪異・妖怪画像データベース』http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiGazouCard/U426_nichibunken_0082_0003_0000.html)。

 

 

*『満済』の記事から13年後のことですが、またしても室町御所に妖怪「大女」が現れました。今回はデカい僧侶、妖怪「大入道」とセットで出現しています。ただ、デカいといっても、所詮は2メートル強。昔にしては大きいと言えそうですが、現在ではそれほど珍しくなくなってしまいました…。

 前述の史料と同様に、とくに何もしないのですが、足利義政たちは今の御所を離れて、新御所を建造しようとしているので、しっかりとビビらせることはだけはできたようです。

 

 

*2021.2.22追記

 流行りものに引っ掛けて…。

 「女型の巨人」が室町殿に出現しました。背丈は約2.4メートル。上記(嘉吉3年の記事)よりも、30センチほど巨大化しています。叫び声をあげるところなどは、まさに「女型の巨人」そのもの。無垢の巨人でも呼び集めていたのでしょうか?

 

  文明三年(1471)正月十八日条     (『経覚私要鈔』8─218頁)

 

  十八日、辛卯、霽、

    (中略)

  (窪転経院榮清)

 一春圓大来、条々蜜々有申子細、実否如何、

  又語云、舊冬十二月十八日夕、自室町殿四足、タケ八尺餘女房高聲呼出之間、

           〔スヵ〕

  人多見之処、カキケツ様不見云々、

 

 「書き下し文」

  十八日、辛卯、霽る、(中略)

 一つ、春円大来る、条々蜜々に申す子細有り、実否如何、

  又語りて云はく、旧冬十二月十八日夕、室町殿四足より、丈八尺余りの女房高声にて呼び出すの間、人多く見るの処、掻き消つ様に見えずと云々、

 

 「解釈」

 一つ、坊官の春円房栄清がやってきた。さまざまなことについて密かに申し上げる事情があった。話の虚実はどうだろう。

  また語って言うには、「旧冬十二月十八日の夕暮れ、室町殿の四足門から、背丈が八尺(約240㎝)以上の女房が大声で呼びかけてきたので、たくさんの人々がその姿を見たところ、かき消すように見えなくなった」という。