周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

自殺の中世史3─15 〜刑罰としての切腹と代理自害 分析編〜

*今回の事件(史料1〜3)については、清水克行「室町殿の紛争解決法」(『室町社会の騒擾と秩序』吉川弘文館、2004、89〜91頁)、同「復讐の衝動」(『喧嘩両成敗の誕生』講談社選書メチエ、165・166頁)で検討されているので、詳細はそちらに譲るとして、ここでは概要だけ説明しておきます。

 応永三十一年(1424)三月十四日、前管領細川満元邸で行なわれた酒宴で、守護赤松義則の子義雅が将軍近習の安藤某を殺害しました。安藤の同僚たちは報復のために赤松の屋敷に押し寄せようとしたのですが、室町殿足利義持はそれを制止し、義雅に切腹を命じました。ところが、義雅はすでに逃亡していたため、赤松家は被官の裏壁(浦上)を代官として切腹させたのです。

 さて、この事件の興味深いところは、足利義持が加害者に切腹を命じているところです。前掲清水著書ではこうした行為を「本人切腹制」と呼んでおり、室町幕府が自力救済を抑止するために採用した紛争処理原則だったと規定しています。また、刑罰としての「切腹」が採用されたのは、この室町幕府の本人切腹制が最初だったそうです(『喧嘩両成敗の誕生』156・160頁)。

 ところがこの本人切腹制、室町幕府の意図とは裏腹に、制度として定着はしなかったようです。

 

 ここで室町幕府が意図した、紛争の責任所在を明確にし、直接の加害者個人に一切の責任を負わせることで問題を解決しようという紛争解決策は、現代の私たちにもある程度妥当な措置のように思える。しかし、守護大名や国人など紛争の当事者たちにとっては、紛争の原因をつくった「本人」を特定することや、ましてや「本人」一人を処罰することなどは、もはやどうでもよいことだった。彼らの最大の関心事は、喧嘩が集団間の紛争に発展してしまった以上、敵対集団が集団としての適切な謝罪の意を表わすことに尽きる。もちろん、この場合の「集団としての適切な謝罪」とは、「本人」にかぎらず中世社会の衡平感覚や相殺主義に照らして妥当な身分の者が処刑されること、ないしは妥当な身分の者を解死人として送致することを意味する。けっきょく、このような観念の拡がりのまえに、室町幕府の本人切腹制は後退を余儀なくされてゆくのである(『喧嘩両成敗の誕生』169頁)。

 

 では、なぜ本人切腹制は定着しなかったのでしょうか。清水氏の研究をさらに引用してみましょう。

 

 (前略)当時において切腹はそれなりに栄誉のある死に方と考えられていたようだ。だとすれば、ここで喧嘩の当事者に対して、斬首などではなく、切腹という栄誉ある死が与えられていたという事実は、彼の主家や室町殿が彼らの尊厳を一定程度認めていたことをうかがわせる(『喧嘩両成敗の誕生』160・161頁)。

 

 上の所論を踏まえると、「切腹」は加害者に配慮された、栄誉ある死に方であったため、被害者側は十分に鬱憤を晴らすことができなかったのではないか、と考えられます。適切な謝罪を求める被害者側にしてみれば、加害者側の尊厳を認めた死に方など、とうてい受け入れることはできなかったのではないでしょうか。

 こうした推論を証明するためには、少なくとも、加害者側が自害を望んでいたという史実を提示しなければならないのですが、実のところ、この刑罰としての切腹は、なにも武家社会にかぎったことではなく、寺院社会でもその事例を確認することができるのです。それが史料4でした。

 

 裏壁某代理切腹事件(史料1〜3)とは異なり、史料4の事件は犯人捕縛時に起きた自殺でした。上醍醐の堂衆であった播磨坊快深は盗人の首領であることが露顕したため、寺僧らに捕らえられたのですが、なんとその場で自害することを願い出たのです。仲間の下法師福善はすぐに斬首されているわけですから、快深も自害を要請しなければ、その場で処刑されていたはずです。犯人を捕縛した直後の緊急判断ということにはなるのですが、斬首から自害へと刑罰が切り替えられたと評価できます。なぜ快深が自害を要求したのか、その理由は判然としませんが、処刑されることよりも自害を望むという風潮があったこと、そしてその自害を認めてやることは、とりもなおさず犯人(加害者)への配慮でもあったことを、この史料から証明できるのではないでしょうか。

 以前に私は、「自殺の中世史3─6」という記事で、殺人犯である光淳阿闍梨が、縁者であった東寺執行の栄暁僧都から自害を勧められて自殺した、という事件を紹介しました。これは応永十七年(1410)の出来事なので、裏壁某代理切腹事件の14年前になります。「命令」か「勧告」か、という強要度の違いはありますが、自害という刑罰によって紛争を収束させようとする考え方は、武家社会よりもまえに、寺院社会のなかで芽吹いていたようです。