周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

妙薬!? 亀の小便

  応永二十三年(一四一六)四月二十六日条 (『看聞日記』1─29頁)

 

      栄仁親王

 廿六日、晴、御所様此間御耳ホ丶メキテ不聞、昌耆有御尋、亀、アヲノケ

  テ鏡令見之時、小便ヲスヘシ、其シトヲ良薬御耳可入之由申、良薬

  献之、仍宇治川之亀捕、如然鏡令見、則小便、医師如申也、厳重事歟、

 

 「書き下し文」

 廿六日、晴れ、御所様此の間御耳ほほめきて聞こえず、昌耆に御尋ね有り、亀を水に

  洗ひて、仰のけて鏡の影を見しむるの時、小便をすべし、其の尿を良薬に合わせて

  御耳に入るべきの由申す、良薬之を献ず、仍つて宇治川の亀を捕らへ、然るがごと

  く鏡を見しむ。則ち小便を出だす、医師申すがごときなり、厳重の事か、

 

 「解釈」

 二十六日、晴。御所様が最近、お耳が熱っぽくなって聞こえなくなった。医師の昌耆に御所様が対処法をお尋ねになった。「亀を水で洗って、仰向けにして鏡で自分の姿を亀にみせると、小便をするはずです。その小便を良い漢方薬に調合してお耳に入れるとよろしいです」と昌耆は答えた。そしてその良薬を献上した。それで宇治川に行って亀を捕まえて、言われたとおりに鏡を見せた。亀はすぐに小便をした。医師の言ったとおりだ。すばらしい処方だ。

 

*解釈、注釈の一部は、薗部寿樹「史料紹介『看聞日記』現代語訳(二)」(『山形県

 米沢女子短期大学紀要』50、2014・12、https://yone.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=203&item_no=1&page_id=13&block_id=21)を引用しました。

 

 「注釈」

「御所様」─栄仁親王。記主伏見宮貞成親王の父(松薗斉「中世の宮家について─南北

      朝・室町期を中心に─」『人間文化 愛知学院大学人間文化研究所紀要』

      25、2010・9、

      http://kiyou.lib.agu.ac.jp/pdf/kiyou_02F/02__25F/02__25_1.pdf)。

 

*なかなか興味深い記事です。現代では難聴を治療するのにステロイドを服用することが多いですが、中世では亀の尿と漢方薬を混ぜて耳に入れたようです。ただ亀の尿を使うのは、一種の呪術ではないか、と考えられています(横井清『室町時代の一皇族の生涯』講談社学術文庫、2002、122頁。八木聖弥「『看聞日記』における病と死(1)」『Studia humana et naturalia』京都府立医科大学医学部医学科(教養教育) 編37、2003・12、https://kpu-m.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=918&item_no=1&page_id=13&block_id=21)。いったいどんな呪術的根拠があって、亀の小便を使ったのでしょうか。亀自体は漢方や薬膳で利用されているので、呪術とは無関係に納得できるのですが、尿を使う根拠はよくわかりません。尿と呪術の関係を研究した論文でもあればよいのですが…。

 また、亀に小便をさせる方法があったことにも驚きです。まさか、仰向けにした亀に、鏡に映した自身の姿を見せることで、放尿するとは思いませんでした。試しに飼っている亀で試してみようと思います。