周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

鹿の嘆き

  長禄二年(1458)五月二十九日条

        (『経覚私要鈔』4─25頁)

 

  廿九日、乙卯、霽、

    (懐英)

  北面賢春法師来語云、於社頭大宮殿後辺、神鹿事外臥之間、神人等走出見之処、

  テン鹿ノヒタヰニ食付、依之臥欤間打放了、然而於鹿死云々、希代不思儀也、

                      〔奇〕

  如何様希哉、又大鳥居辺鹿済々群集、見人成寄異之思之処、悉向東、一同

  サケヒ悲云々、是又事躰見愁歎之色、両篇希為寺社以外之事也、尤も可有

  祈祷欤、可歎々々、(後略)

 

 「書き下し文」

  二十九日、乙卯、霽る、

  北面賢春(懐英)法師来たり語りて云く、社頭大宮殿後の辺りに於いて、神鹿事の外臥すの間、神人ら走り出で見るの処、テン鹿の額に食ひ付く、之により臥すかの間打ち放ち了んぬ、然れども鹿に於いては死すと云々、希代不思儀なり、如何様に希なるかな、又大鳥居辺りに鹿済々群集す、見る人奇異の思ひを成すの処、悉く東に向き、一同に叫び悲しむと云々、是又事の躰愁歎の色に見ゆ、両篇希にして寺社以外の事たるなり、尤も祈祷有るべきか、歎くべし嘆くべし、(後略)

 

 「解釈」

 北面の賢春(懐英)法師がやって来て語った。春日大社のご本殿の後ろあたりで、意外にも神鹿が倒れていたので、神人らが駆け寄って見たところ、貂が鹿の額に食いついていた。このせいで倒れていたようなので引き離した。しかし、鹿についてはすでに死んでいたという。世にも希な思いもよらないことである。ともかくも珍しいことであるなあ。また、大鳥居のあたりにたくさんの鹿が群がり集まっていた。見ている人は不思議なことだと思っていたところ、鹿はことごとく東に向き、一斉に叫んで悲しんだという。これまた、この様子は嘆き悲しんでいるように見えた。この二つの出来事は珍しいことで、寺社にとってはとんでもないことである。当然、祈祷しなければならないだろう。なんとも悲しいことではないか。(後略)

 

 Priest Kenshun came and spoke to me. Surprisingly, a sacred deer was found lying near the back of the main shrine of Kasuga Taisha Shrine, so the priests ran over and saw that a Japanese marten had bitten the deer's forehead. This seemed to have caused the deer to collapse, so I pulled the Japanese marten away. However, the deer was already dead. This is an unexpected and unusual occurrence. There were many deer gathered around the large torii gate. The people who saw them thought it was strange, but the deer all turned to the east and cried out in unison in mourning. These two events are rare and are ominous for temples and shrines. Of course we will have to pray. This is so deplorable.

 (I used Google Translate.)

 

 

【考察】

 今回は鹿がらみの不吉な兆候です。鹿が何ものかに食い殺されるという事例については、それほど珍しいとは思いませんが、二つ目の事例はかなり特殊に思えます。鹿が寄り集まり、同一方向を向いて一斉に鳴く。その方向に何があったのか、どのような意味があるのか、鹿の専門家に教えを乞いたいものです。たんに発情期だっただけでしょうか…。