周梨槃特のブログ

史料紹介という修行

吉事!? 凶事!? どっちよ…

  文明十八年(一四八六)八月十二日条 (『長興宿禰記』188頁)

 十二日、甲申、晴、

  後聞、今夜室町殿不思儀有恠異、御母儀(割書)「一位殿」御方御倉前庭、有合戦

  聲・兵具打合音令騒動、番衆輩奔散令驚之処、無人一向無其形云々、陰陽賀・安両

         (土御門)           (勘解由小路)

  人、被召占文、安三位有宣爲吉事之由勘申、賀三位在通以外御愼之旨、進占文、如

  何、

 

 「書き下し文」

 十二日、甲申、晴れ、

  後に聞く、今夜室町殿不思儀の恠異有り、御母儀「一位殿」御方御倉の前庭に、合

  戦の聲・兵具の打ち合ふ音有りて騒動せしむ、番衆の輩奔り散り驚ろかしむるの

  処、人無く一向に其の形無しと云々、陰陽賀・安両人、占文を召さる、安三位有宣

  吉事たるの由勘申し、賀三位在通以ての外御慎みの旨、占文を進む、如何、

 

 「解釈」

 十二日、甲申、晴れ。

  後で聞いた。今夜室町殿(小川御所)で思いもよらない怪異があった。母君一位殿(日野富子)の御倉の前庭で、合戦の声や武具の打ち合う音がして騒ぎになった。警護の武士たちが走り回り、その場は騒然となったが、人の姿はまったくなかったそうだ。陰陽師賀茂氏(暦家)と安倍氏(天文家)の両人から占文をお取り寄せになった。安倍三位土御門有宣は吉事であると占い定め、賀茂三位勘解由小路在通はとんでもないことで物忌みが必要であるという内容の占文を進上した。どうしたものだろうか。

 

 「注釈」

「占文」─占い定めた結果を書き記して、朝廷に奉った文書(『日本国語大辞典』)。

 

*不気味な怪音が室町御所に響きました。この現象は単なる怪異にとどまらず、陰陽師

 に占わせるところまで、話が大きくなります。しかし、有宣と在通の占いの結果は真

 逆になりました。いったいどちらを信じればよいのでしょうか。いずれにせよ、あま

 り気持ちの良い現象ではないです。

 

*史料纂集『長興宿禰記』の解題より

 筆者は、官務家小槻氏の一流で、応仁の乱前に官務(中央官僚機構「弁官局」の事

 務)にたずさわった治部卿大宮長興。文明7年(1475)から長享元年(14

 87)までの日記。