周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

痴情のもつれ、行きすぎたDV(Affair and Terrible DV)

  文明十一年(一四七九)五月五日条 (『晴富宿禰記』九三頁)

 五日辛酉 雨、自巳剋止、幸甚々々、

  佳節幸甚々々、

  今日四条西洞院(割書)「西洞院西四条北頬」在家夫婦又妾有之、彼婦妬妾而

  責夫、仍夫害婦并小子、希代所行也、挙町驚見、欲告所司代、夫則逐電云々、

  此時分職業経過見及之由語之、

 

 「書き下し文」

 五日辛酉 雨、巳の剋より止む、幸甚々々、

  佳節幸甚々々、

  今日、四条西洞院西洞院西四条北の頬」在家夫婦又妾之有り、彼の婦妾を妬みて夫を責む。仍て夫婦并びに小子を害す、希代の所行なり、町を挙げて驚き見、所司代に告げんと欲す、夫則ち逐電すと云々、この時分に職業経過し見及ぶの由之を語る、

 

 「解釈」

 五日辛酉 雨。巳の刻から雨は止んだ。非常にありがたいことだ。

  端午の節日、何よりもめでたい。

  今日、四条西洞院、西四条の北側の民家に、夫婦と妾が住んでいた。妻は妾を妬んで夫を責めた。そこで、夫は妻と幼子を殺害した。世にも希な行いである。町人たちはことごとく驚いて見た。所司代にこの事件を通報しようとしたが、夫はすぐに逃亡したそうだ。ちょうどこの時分に、職業が事件現場を通り過ぎ、その様子を見たと語った。

 

 Today, a couple and a concubine lived in the house of an ordinary person in the Shizyo Nshinotouin district (north of Nishisizyo). The wife was jealous of the concubine and condemned her husband. Therefore, her husband murdered his wife and little baby. This is a very rare incident. All the townspeople were surprised and saw. They tried to inform Syoshidai (police) of the incident, but It is said that he ran away at once. Just this time, Saeki Motonari told that he stopped by the incident scene and saw that situation.

 (I used Google Translate.)

 

 

 「注釈」

所司代」─浦上則宗

 

「職業」

 ─佐伯職業。主殿寮の官人か。「職」の通字をもつ職能・職種という名前が『晴富宿禰記』に散見するので、一族だと思います。また、この人物は「年預」という役職とともに現れます。

 『親長卿記』の文明四年(一四七二)六月十三日条(第1─160頁)に、「(中略)故主殿官人家方死去之後、忠方(家方孫三歳)代就所役闕怠、職業至忠方十五歳可勤代之由、自舊院有仰云々如何、予申沙汰事也、其外被仰付代無正體、闕怠所役之間、如此及御沙汰之由被申了、」とあります。「主殿寮の官人伴家方が亡くなった後、家方の孫で三歳の忠方の代わりが役目を怠っていることについて、職業は忠方が十五歳になるまで代わりに務めるべきであると後花園院からご命令があったそうだが、どうするべきだろうか。私(甘露寺親長)は意見を申し上げた。職業以外に代わりをご命令になる適切な人物はおらず、役目を怠っている状況が続いているので、このようにお命じなるべきであると申し上げた。」と訳せます。

 『親長卿記』の校訂者は「佐伯」と傍注を施しているので、職業は佐伯氏なのでしょう。また、伴氏は主殿寮の年預を代々継承してきた家柄ですが、継承者がいないため、年預の臨時継承者として職業の名前が挙がったことがわかります。したがって、『晴富宿禰記』に現れる「年預」という役職は、主殿寮の年預だと考えられます。なお、「代」は「年預代(代官)」とも訳せそうですが、『晴富宿禰記』では「年預」とだけ記載され、「代」の文字はないので、「年預」自体に任命されたと考えられます。

 

*どのようなレベルの住民かわかりませんが、妾(側室)を持っていたようです。同じ家で暮らしていれば、嫉妬もするのでしょう。妻がキレるのも無理はありません。ただこの夫、やりすぎました。正妻と実子を殺してしまいます。よっぽど妾が好きだったのでしょう。殺人事件として所司代に通報されましたが、夫はすぐに逃亡したそうです。

 物騒な事件の多い室町時代では、こんな事件は当たり前かと思っていましたが、町民たちがこぞって驚き、筆者の壬生晴富も世にも希な所行だと評価しているので、現代人の感覚と変わらず、珍しい事件だったと言えそうです。

 それにしても、逃亡した夫はその後どうなったのでしょうか。「逐電」という記事はよく見かけますが、アウトローになった人間は、いったいどのような生活を送ったのでしょうか。ここが知りたいところです。

 

 I do not know the class of this husband, but he seems to have a concubine. If his wife lives with the  concubine in the same house, his wife will also be jealous. It is not unreasonable for my wife to get angry. But this husband kills his wife and his son. I guess he liked the concubine very much. The townspeople told to the police as a murder case, but It is said that he ran away at once.

 In the Muromachi era with many dangerous incidents, I thought that it is no wonder that such a case will happen, but since all the townspeople are surprised, and the author Mibu Harutomi evaluates it as a very unusual act. This is similar to the sense of modern people.

 Anyway, what kind of life did the husband who escaped sent since then? I often see stories that criminals have escaped, but what kind of life did they? This is where I want to know.

 (I used Google Translate.)