周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

盛られた蛇

「盛られた蛇」

  文安四年(1447)閏二月十九日条

        (『経覚私要鈔』1─167頁)

 

  十九日、辛巳、甚雨、

  (西忍)

  楠葉語云、天王寺ニ在蛇、角在之、ヒレモ立、長三尺計、其色金色也云々、

  人多以見之、出現吉凶如何、此間事云々、後聞、此蛇ハ本堂石破目ニ在之、

  角モナシ、通例蛇也云々、以外説虚言也、

 

 「書き下し文」

 楠葉語りて云はく、天王寺に蛇在り、角之在り、ヒレモ立つ、長さ三尺ばかり、其の色金色なりと云々、人多以て之を見る、出現吉凶如何、此の間の事と云々、後に聞く、此の蛇は本堂の石の破れ目に之在り、角も無し、通例の蛇なりと云々、以外の説虚言なり、

 

 「解釈」

 楠葉西忍が、次のようなことを話した。「天王寺に蛇がいた。角があり、鰭も立っていた。長さ三尺(1メートル弱)ほどで、その色は金色である。多くの人がこの蛇を見た。蛇の出現の吉凶はどうだろうか。最近のことだ」という。後に聞いたところによると、この蛇は本堂の石の割れ目におり、角もなかった。普通の蛇だったという。とんでもない虚説である。

 

Kusuba Sainin told me the following. "There was a snake in Tennouji Temple. It had horns and had fins. It was about one meter long and its color was golden. Many people saw this snake. Is the appearance of the snake a good omen, or is it a bad omen? It's a recent event." According to what I heard later, this snake was in a crevice in the stone of the main temple and had no horns. It was just a normal snake. It's an outrageous lie.

 (I used google translate.) 

 

 「注釈」

「楠葉」

 ─経覚の側近。天次。幼名ムスル、法名西忍。天竺出身の僧侶を父にもち、母の出身地である河内国楠葉郷にちなんで、楠葉と名乗る。この人物の詳細については、酒井紀美『経覚』(吉川弘文館、2020年、94頁)参照。

 

 

【考察】

*「うわさに尾鰭が付く」とはよく言ったもんで、普通の蛇だったのに、ツノが生え、ヒレが立っていることにされてしまいました。挙げ句の果てに、体の色は金ピカ…。噂話の信憑性なんてものは、今も昔も変わらないようです。こういう記事を読んでいると、コロナ禍が本格化したころに、とある情報を信じて、イソジンを買いに走ったことを思い出します。あ〜、懐かしい。

 それにしても、なんと気の毒な蛇でしょうか。穏やかに暮らしていたであろうに、突如、人間の好奇の目にさらされ、寝床まで探られる始末…。蛇の気持ちになると、なんだか泣けてきます…。