周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

仏通寺住持記 その32

 「仏通寺住持記」 その32

 

 (1525)

 五 乙酉 慈雲派  十二月廿六日興平逝去、法名実岩

      竹渓智賢禅師仙英嗣 〈侍真」長松派〉寿穆 納所 徳忠

      向上 周因     〈観白」長松〉恵乗  維那 元聚

                (記)「東昇」  (記)「者」

      四月廿八日肯祥庵炎上、五月三日自旦方諸寮舎破却之使上七月十三日

      落着、壁書礼六十貫自山中調之、

 

    御許山仏通寺制札

 一 当住持番衆諸塔主、堅可被相守先師規式之事

 一 諸派出番納所等不可被任不器之仁事

 一 当納所一回之間寺家細大雑務件々可被請衆評之事

 一 年々寺領随土貢豊倹、衆僧多寡事

                  〔ナシ〕

 一 寺領田地作之事、給人方可有停止之事

         (昏)          (徘徊)

 一 山中老若共、昬鐘鳴終而寺中諸寮舎不可俳佪、若於有難廻避

            〔背此旨〕

  用者扣門成声可弁之、肖這法彳途越壁輩者可為盗火之罪人之事

 一 諸谷口々搆関抜、夜中叩不可開之事

              (藉)

 一 於諸経営并風呂等高声狼籍之事、評定衆堅可被制之、若有違犯者而致口論者、

   相共直擯出而、永不可許門中出入、其外肖〔背〕師之儀輩於自余有暫時許容者

   以可為同罪之事

                   〔ナシ〕

 一 就売買本寺之器、為本別不許用大小之事

 一 於一番座敷山随不器之仁不可雑入、但於本寺成功者許之、亦得矣

                〔ナシ〕

 一 於門中重罪他出之輩不許再来之事

 一 本寺山木戸并夏切、含暉之横路堅可塞之事

〔ナシ〕

「一 牆并路不可寄左右之事」

                  〔ナシ〕             〔已〕

 一 雖為寺家修造、伐築山之木并山中之植木、失境致、其外於山林取材木以下不可

   出寺外之事

〔ナシ〕

「一 於山外白衣莎笠之事」

                    〔之〕

 一 尼衆無伴而山中諸寮舎不許洗濯出入○事

 一 本寺并諸塔頭、若於一院有非例之儀、評定衆可被董之事

*右以此規式、末代寺家可然様可有評議、若於違犯輩者堅可加成敗之状、如件、

 (1525)

 大永五年乙酉八月六日

                      〔侍真妙可(花押)〕

  〔当住持瑞永(花押)〕 〔納所瑞賢(花押)〕 〔維那曇樹(花押)〕 〔正法院全育(花押)〕

  住山瑞永在判     納所在判     維那在判     正法院在判

  〔ナシ〕      〔両足院見忠(花押)〕 〔芥禅院智光(花押)〕

  「含暉院在判」    両足院在判     芥禅院在判

  〔長松院恵舜(花押)〕 〔永徳院慶纉(花押)〕 〔肯心院祥誾(花押)〕

  長松院在判      永徳院在判     肯心院在判

       〔花押〕

  掃部頭興平在判

  (頭注)

  「十七ヶ条之終ニ

   就山中悪事以後之制札、老僧様申合、興平以判形被申候、已後之事者以此筋目

        〔事〕                 〔従〕  〔付〕

   堅可被仰付斗千万目出度候、此旨違乱於悪事者、一段○此方可申○候、其時聊

           〔此由〕

   我等非無沙汰候、○○山中へ御披露簡要候、恐惶謹言、

               (真田備中守)〔花押〕

       南呂初六日       敬賀判

       〔寺〕

     仏通○納所禅師」

 

 「書き下し文」

 五乙酉、慈雲派、十二月廿六日興平逝去、法名実岩、

     竹渓智賢禅師、仙英を嗣ぐ、侍真長松派寿穆、納所徳忠、向上周因、観白長松(記「東昇」)恵乗、維那元聚、

     四月二十八日肯祥庵炎上す、五月三日旦方より諸寮舎破却の使ひ上る、七月十三日落着す、壁書の礼六十貫山中より之を調ふ、

 

    御許山仏通寺制札

 一つ、当住持・番衆・諸塔主、堅く先師の規式を相守らるべきの事、

 一つ、諸派の出番・納所等を不器の人に任せらるべからざる事、

 一つ、当納所一回の間、寺家細大の雑務の件々衆評を請はるべき事、

 一つ、年々寺領土貢の豊倹に随ひ、衆僧多寡の事、

 一つ、寺領田地作の事、給人方停止有るべき事、

 一つ、山中の老若ども、昏鐘鳴り終はりて、寺中の諸寮舎を徘徊すべからず、若し廻避し難き用有るに於いては、門を扣き声を成し之を弁ずべし、此の旨に背き途に佇み壁を越ゆる輩は、盗火の罪人となすべきの事、

 一つ、諸谷口々にて関抜けを構へ、夜中に叩き開くべからざるの事、

 一つ、諸経営并びに風呂等に於いて高声・狼藉の事、評定衆堅く之を制せらるべし、若し違犯する者有りて口論を致さば、相共に直ぐに擯出して、永く門中の出入りを許すべからず、其の外師の儀に背く輩、自余に於いて暫時許容する者有らば、以て同罪と為すべきの事、

 一つ、売買に就き本寺の器を本と為し、別に大小を許用せざる事、

 一つ、一番座敷山に於いて、不器の仁に随ひ雑入すべからず、但し本寺の成功に於いては、之を許すことも亦得るか、

 一つ、門中に於いて重罪他出の輩、再来を許さざる事、

 一つ、本寺の山の木戸并びに夏切、含暉の横路、堅く之を塞ぐべき事、

 「一つ、牆并びに路左右に寄るべからざるの事、」

 一つ、寺家修造を為すと雖も、築山の木并びに山中植木を伐らば、境致を失ふ、其の外山林に於いて材木已下を取り、寺外に出だすべからざるの事、

 一つ、門中に於いて、重罪他出の輩、再来を許さざるの事、

「山外に於いて白衣・莎笠の事、」

 一つ、尼衆伴無くて山中諸寮舎の洗濯の出入を許さざるの事、

 一つ、本寺并びに諸塔頭、若し一院に於いて非例の儀有らば、評定衆董さるべきの事、

 右此の規式を以て、末代寺家然るべきの様評議有るべし、若し違犯の輩に於いては、堅く成敗を加ふべきの状件のごとし、

  (中略)

  「十七ヶ条の終はりに

山中悪事以後の制札に就き、老僧様申し合はせ、興平判形を以て申され候ふ、已後の事は此の筋目を以て堅く仰せ付けらるべき事千万目出度く候ふ、此の旨に違乱する悪事に於いては、一段此方より申し付くべく候ふ、其の時聊かも我ら無沙汰に非ず候ふ、此の由山中へ御披露簡要に候ふ、恐惶謹言、」

 

 「解釈」

 大永五年乙酉(1525)、慈雲派が番衆を勤める。十二月二十六日小早川興平が亡くなった。法名は実岩。

     仙英徳種を継いだ竹渓智賢禅師が住持を勤める。侍真は長松派の寿穆。納所は徳忠。向上寺住持は周因が勤める。観白(方丈)は長松院派(東昇院派)恵乗。維那は元聚。

     四月二十八日肯祥庵が炎上した。五月三日に檀那方から諸寮舎を破却するための使者が登ってきた。七月十三日に作業が完了した。制札発給のお礼六十貫文を当寺で用意した。

 

    御許山仏通寺制札

 一つ、当住職・番衆・諸塔主は、厳密に先師の定めた規則を互いに守らならなければならないこと。

 一つ、諸派から人員を出す番衆・納所等の役職は、資質・才能のない人間に任せてはならないこと。

 一つ、当寺の納所は一度だけの務めになるので、寺院のあらゆる雑務については評定衆の評議を要請しなければならないこと。

 一つ、年ごとの寺領の年貢の豊凶にしたがって、衆僧の数を増減すること。

 一つ、寺領の田地を作ること。給人となっている寺僧たちが田作りをすることを停止するべきこと。

 一つ、山中に暮らす人々は、晩鐘が鳴り終わってから、寺中のさまざまな寮舎を徘徊してはならない。もし避けられない用事があるときには、門を叩いて声を上げ、その事情を述べよ。この取り決めに背いて、道に佇み壁を越えて侵入する者は、盗人・放火の罪人とみなすべきこと。

 一つ、さまざまな谷の入り口で関所を抜けることを企て、夜中に門を開いてはならないこと。

 一つ、さまざまな饗応や風呂などで、大声を出したり狼藉をしたりすること。評定衆は厳密にこれを制止しなければならない。もし違犯する者がいて口論するならば、みな一緒にすぐに追放して、永久に寺内への出入りを許してはならない。その他、先師の規範に背く者をしばらくの間でも許容する者が他にいるなら、その者を同罪とするべきであること。

 一つ、売買については本寺の枡を基本として、それ以外の大小の枡を許容してはならないこと。

 一つ、一番座敷山には、無能な者に従って作法をわきまえずに入ってはならない。ただし、当寺に私財を寄付した者については、入山を許可してもよいだろう。

 一つ、寺内において重罪を犯して出奔した者は、当寺への再来を許さないこと。

 一つ、当寺の山の出入り口や夏切り、含暉院の横の道は、厳密に塞がなければならないこと。

「一つ、垣や道の左右に近寄ってはならないこと。」

 一つ、寺家の修造をするとしても、築山の木や山中の植木を切るなら、寺内の景観を損なう。その他、山林で材木などを取り、寺外に持ち出してはならないこと。

「寺外で白衣や蓑を着てはならないこと。」

 一つ、尼衆はお供のないまま、寺内のさまざまな寮舎の洗濯のために出入りするのを許さないこと。

 一つ、本寺ならびに諸塔頭において、もし一つの塔頭でも前例にない勝手な振る舞いがあれば、評定衆がその行為を正さなければならないこと。

 右、この規則によって、将来まで寺院が適切であるように評議するべきである。もし違犯する者については、厳しく処罰するべきである。

  (中略)

 十七ヶ条の終わりに、

寺中で悪事が起きた後に発給された制札について、老僧様方が相談してまとめ申し上げ、小早川興平様が花押を書き添え申し上げなさった。以降のことについては、この取り決めによって厳密にご命令になるべきことが、きわめてすばらしいことです。この内容に背く悪事については、いっそうこちらが取り締まるように申しつけるつもりです。そのとき、我らは少しも放っておくことはありません。この内容を寺中にご披露することが大切です。以上、謹んで申し上げます。

 

 「注釈」

「夏切」─未詳。切通し(山や丘などを切り開いた道路)の名称か。

 

 つづく