周梨槃特のブログ

いつまで経っても修行中

中世版“お迎え現象”? 〜早死の予感〜 (Premonition of premature death)

  文明二年(1470)四月二十八日条

          (『大乗院寺社雑事記』4─424頁)

 

    廿八日 (中略)

                 (閻)

 一伝聞、当社西屋地蔵拜見者奉焔魔王事有之、其躰ハ必早世云々、

      (房)

  先年仙観⬜︎如之奉之、不久而他界了、今度東北院僧正又如此奉

  之由風聞、実否如何、無心元事也、(後略)

 

 「書き下し文」

 一つ、伝へ聞く、当社西屋地蔵を拜見する者に閻魔王と見奉る事之有り、其の躰は必ず早世すと云々、先年仙観房之くのごとく之を見奉り、久しからずして他界し了んぬ、今度東北院僧正又此くのごとく之を見奉るの由風聞す、実否如何、心元無き事なり、

 

 「解釈」

 一つ、伝え聞くところによると、春日社西屋の地蔵を拝見する者のなかに、閻魔王のように見申し上げてしまうことがある。その者は必ず早死にするという。先年、仙観房宗乗はこのように地蔵を拝見し、しばらくして他界した。今度は、東北院俊円僧正がまたこのように地蔵を拝見したと噂された。事の真偽はどうだろうか。気がかりなことである。

 

 Some of the people who saw Kṣitigarbha enshrined in Kasuga Shrine look it like Yama(sometimes known as the King of Hell, King Yan or Yanluo). It is rumored that they will always die prematurely. Last year, Sokanbo Sojo (name of the monk) saw Kṣitigarbha like this, and after a while passed away. This time, it was rumored that Tohokuin Shunen (name of the monk) again saw Kṣitigarbha like this. Will he really die? I'm very worried.

 (I used Google Translate.)

 

 

 「注釈」

「当社西屋地蔵」

 ─春日社西新談義屋に安置された地蔵か(松村和歌子「円窓亭(旧西屋経蔵)の歩み」2019・10、https://www.naranagi.jp/marumadotei/dejume.pdf、「春日神社境内図」4・5の下方(大乗院の西側)、https://meta01.library.pref.nara.jp/opac/repository/repo/138061/#?c=0&m=0&s=0&cv=0&r=0&xywh=-508%2C-228%2C6123%2C4551)。

 

「仙観房」

 ─宗乗。六方衆、供目代(森川英純「室町期興福寺住侶を巡る諸階層と法会」『大乗院寺社雑事記研究論集』第五巻、和泉書院、2016・4、付属諸表・データメモ)。

 

「東北院」

 ─俊円。興福寺の院家の一つで、主に名家出身の僧侶(良家身分)が入室する(呉座勇一『応仁の乱中公新書、2016年、7頁。森川英純「室町期興福寺住侶を巡る諸階層と法会」『大乗院寺社雑事記研究』第五巻、和泉書院、2016年、1頁、付属諸表・データメモ)。

 

 

*優しげな姿のお地蔵さんを拝んでいると、恐ろしい形相の閻魔大王に見えてくる。それは、まもなく訪れる死のサイン…。こんなことを言われると、今後仏像を拝見するのが怖くなってきそうですが、これも中世版の〝お迎え現象〟なのでしょう。俗世への執着を捨てるのなら、これぐらい強烈なものが見えたほうがよいのかもしれません。(「お迎え現象」については、宮下光令「『亡くなった母が天国から迎えに来た』お迎え現象はどれぐらいの患者が経験するのか?」『オンコロジーナース』Vol.10 No.3, 2017参照, http://plaza.umin.ac.jp/~miya/oncolnurs15.pdf